2013年11月22日金曜日

習近平国家主席は世界最強の指導者か?中国の新指導部、経済を前進させ続けるだけで大忙し

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●「決定」には、一人っ子政策の実質的な廃止も盛り込まれている〔AFPBB News〕
中国の中絶件数、約40年で3億3000万件


JB Press 2013.11.22(金)  Financial Times
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/39252

習近平国家主席は世界最強の指導者か?
中国の新指導部、経済を前進させ続けるだけで大忙し
(2013年11月21日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

 習近平氏は今、世界最強の指導者だと言っても過言ではないかもしれない。
 公平を期するために言えば、競争は大して激しくない。

 米国のバラク・オバマ大統領はシリア問題を巡り国外で誇りを傷つけられ、国内では自身の医療制度改革のみっともない失敗で弱体化した。
 早計かもしれないが、オバマ大統領は既にレームダックと見なされている。

 ドイツのアンゲラ・メルケル首相は、中国の基準から見れば中規模の国家のトップとして3期目の任期を全うできないかもしれない。

 日本の安倍晋三首相は、世界一見事な紙幣印刷機を管理しているが、世界一力強いとはとても言えない経済を任されている。
 こうして見ると、消去法で残るのが習氏だ。
 何しろ同氏は2020年に退任する時に世界最大になっている可能性がある経済の実権を握る期間がまだ9年ある。

■鄧小平以来最も強い指導者、「決定」が描く野心的改革

 しかも、習氏は国内で即座に権力基盤を強化してきた。
 わずか1年で、習氏は鄧小平以来最も強い中国の指導者になったと言えるだろう。
 その証拠は11月16日、期待薄の題名が付けられているが潜在的に非常に重要な
 「全面的に深化する改革に関する主要問題に関する決定」
の発表とともに得られた。

 この文書――あたかも天から言い渡されたかのように、既に英語では単に「the Decision(決定)」と呼ばれている――は、朱鎔基元首相が10年以上前に国有部門の抜本改革を監督して以来最も野心的な改革と見えるものについて詳しく説明している。

 今後10年間の青写真である「決定」は、
①.習氏が率いる指導部が投資過多の偏った中国経済が直面する深刻な問題を知的に理解し始めていること、
②.そして、さらに肝腎なことを言えば、そのために対策を講じることを恐れていないこと
を示している。

 習氏の権力強化は素早かった。
 内気だった前任の胡錦濤氏とは違い、習氏はすぐに中国の3つの最高ポスト全部に就任し、重要性の高い順に言えば、共産党総書記、軍事委員会主席、そして、そうそう、中国国家主席になった。
 習氏は直ちに汚職撲滅運動を開始し、カネのためなら何でもする党関係者を不安で戦慄させた。

 また、インターネット上の反対意見を厳しく取り締まり、外交政策をもっと直接的に自らの管理下に置いた。
 後者は国家安全委員会の創設に反映されている。

 ニューヨーク・タイムズ紙の記者クリス・バックリー氏は習氏のことを、中央政治局の6人の同僚の上に君臨する
 「皇帝のような国家主席」
と評している。

 バックリー氏は、新たな指導者である習氏を、必要な経済近代化を推し進めるために政界の敵対勢力を封じ込めることができる絶対的指導者と見なす「新権威主義」の擁護者、蕭功秦氏の言葉を引用している。

■首相の責任であるはずの経済問題も掌握か

 実際、習氏は経済問題でも主導権を握っているように見える。
 国営新華社通信は「決定」がどのように策定されたかを詳述する中で、習氏だけを名前で呼び、首相そしてエコノミストとして訓練を受けた人間として経済政策を担当しているはずの李克強氏のことには言及していない。

 2万1000字に及ぶ文書「決定」で概要が示された改革の幅広さと熱意は、多くの人を驚かした。
 クレディ・スイスは、「決定」は少なくとも60の重要施策を持つ16分野の改革に取り組んでおり、市場の「決定的」な役割への転換になると党が示唆してきたものを肉付けしていると言う。

 ニュースの見出しを飾った改革には、一人っ子政策の実質的な廃止が含まれる。
 これは長年の懸案だった緩和であり、差し迫った人口動態の危機を食い止めるには恐らく遅きに失した。

 共産党は、労働を通じて再教育する悪名高い「労働教養」も廃止する。
 これらはいずれも歓迎すべき進歩だ。
 もっと多くの子供を欲しがっている人たちや、現在、精神を向上させるために岩を砕いている人たちにとっては、特にそうだ。

 だが、最も広範囲に及ぶ改革は、経済と金融の改革だ。

■経済と金融の大改革

 共通のテーマは、経済の最高指揮権は国家の手に委ねられるが、公的部門の多くがより大きな市場の厳しさにさらされるということだ。
 そのため国有企業は、政府が助成する融資や、土地や電気といった政府が助成する生産要素の供給を受けるのではなく、次第に相場通りの料金を支払うことを求められるようになる。

 国有企業は、社会的セーフティーネットを構築するために今より多くの資金を集めなければならない国から激しく圧迫されるだろう。
 このセーフティーネット自体、経済を投資から引き離し、消費需要の方向に向けるという、これまで失敗してきた取り組みの中で不可欠な要素だ。

 地方政府は不動産税を課すことができるようになる。
 反対に、地方政府が土地収用により資金を集める力は、土地所有者の財産権が強化されることで弱められる。
 それによって農民が都市に移動するのが容易になるはずだ。
 これは、戸口(戸籍)制度の緩和によって後押しされる成長を支える都市化にとって、潜在的に重要な原動力だ。

 もちろん、これは理論上のことだ。
 こうした改革をすべて書き記すことは、それを実施するよりはるかに簡単だ。
 だが、「決定」のたとえわずかでも実行に移されれば、中国の経済モデルは大きく変化するだろう。

 不効率性や過剰生産能力を締め出すことで痛みも招くだろうが、経済的合理性の観点からは恩恵をもたらすはずだ。

■国外で存在感を示すことにやきもきする暇なし

 中国経済は燃料切れになりつつあり、
 ますます小さくなるリターンのために
 ますます多くの生産要素を必要としている。
 「決定」は、中国経済を新たな軌道の乗せる試みだ。
 それは途方もない大仕事になる。

 習氏は、中国経済という巨大なマシンが道路から逸れてしまわないようにしなければならないだけではない。
 マシンがのろのろ前進している間でも、オイル交換やタイヤ交換に相当するものを行わなければならない。

 その意味では、習氏は結局、世界最強の指導者ではないのかもしれない。
 同氏は国内問題であまりにも忙し過ぎて、海外で自らの存在感を示すことを過度に心配する暇はないだろう。

By David Pilling
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