2013年11月19日火曜日

なぜ、中国版KGBが「日中関係にプラスの可能性」があるのか?

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●18日、「国家安全委員会」(国家安全保障会議)の創設という中国共産党第18期中央委員会第3回全体会議(三中全会)の決定に日本メディアは注目している。資料写真。


レコードチャイナ 配信日時:2013年11月19日 8時42分
http://www.recordchina.co.jp/group.php?groupid=79296&type=0

国家安全委員会の創設は日中関係にプラスの可能性―中国専門家

 2013年11月18日、「国家安全委員会」(国家安全保障会議)の創設という中国共産党第18期中央委員会第3回全体会議(三中全会)の決定に日本メディアは注目している。
 ある日本紙は、中国が国家安全委員会を創設するのは尖閣諸島など海洋問題に対する管理・コントロールを強化するためだと分析。
 「尖閣問題をめぐり日中関係が緊張するなか、日本が国家安全保障会議の創設を計画していることから、中国も対抗措置を講じた」とした日本紙もある。(文:馮昭奎(フォン・ジャオクイ)中国社会科学院日本研究所研究員。環球時報掲載)

 現代では国家の安全保障は政治、外交、軍事という伝統的分野から金融、財政、サイバー空間、環境汚染、麻薬密売、テロ、重大感染症、天災、社会の安定といった非伝統的分野にまで拡大している。
 しかも安全保障上の様々な問題や分野は互いに関連し、結合している。
 高度の権威ある機関が国家戦略の観点から、安全保障上の様々な問題に総合的、全面的に対処するとともに、各分野、各機関の力と資源を整理統合し、調整することで、政策決定の水準とレベルを引き上げる必要がある。
 国家安全委員会の創設はまさに新安全保障観、総合安全保障観、科学的安全保障観を具体化する措置なのだ。

 日本の一部メディアがこれを「尖閣諸島など海洋問題に対する管理・コントロールの強化」と解釈しているのは、日本自身の国家安全保障観の偏りの反映だ。
 中国の国家安全委員会は日中関係を扱うためだけに創設されるものではない。
 中国の安全保障・対外戦略において、日本の地位はそんなに高くはなく、日本メディアが自らを過大評価するには及ばない。

 早くも1980年に、日本の大平正芳内閣は経済安全保障、農業安全保障、食糧安全保障を含む総合安全保障戦略を定めた。
 これと比べると、現在安倍首相の定めた「尖閣諸島を要とする」安全保障戦略は深刻な後退と言わざるを得ない。
 安倍氏は国家の安全を「軍事の安全」と同一視し、「軍事の安全」を「尖閣諸島に専念」と同一視し、力の限り「中国脅威論」を鼓吹し、中国を敵視するナショナリズムを煽り立てることで、支持率を高めようとしている。
 これは日本の安全のためというより、自らの政治的利益のためと言った方がいい。
 国家安全保障の利益の定義の誤りが国力の衰退につながるのは必至だ。

 中国の国家安全委員会は日中関係のためだけに創設されるものではないが、日中関係の処理を差し迫った課題とすることは明らかだ。
 ここには2つの「付き合い」が存在する。
①.1つは中国の国家安全委員会内部の、外交、国防、安全、経済、海洋、環境保護当局間の「付き合い」であり、意思疎通と調整を強化することで、中国の領土主権を断固として守るとともに、「2つの百年目標」の達成に必要な安定した周辺環境を維持するのにプラスの対日戦略・政策を定めるうえでプラスとなる。
②.もう1つは日中両国の国家安全保障会議間の「付き合い」であり、両国間の働きかけ合いのチャンネルがもう1つ増える。

 日中間の島嶼争いは「腫れ物」のようなもので、両国ともにこの腫れ物を切開する度胸がない。
 今後日本には国家安全保障会議ができ、中国にも国家安全委員会ができる。腫れ物を切開して殺菌治療を行うことのできる時期を迎えるのかもしれない。
 この意味において、筆者は中国の国家安全委員会の創設は日中関係の発展にプラスの影響と効果をもたらす可能性があると考えている。

(提供/人民網日本語版・翻訳/NA・編集/武藤)


 なるほど。
 つまり、対数を算数で解こう、ということのようである。


JB Press 2013.11.22(金)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/39256

国家安全委員会はNSCか、それともKGBなのか
意外に快適だった新幹線~中国株式会社の研究(235)


●中国版の新幹線〔AFPBB News〕

 今回の原稿は北京・中関村にある某有名大学の宿泊施設で書いている。
 11月17日から6日間、まず上海・蘇州で友人の仲間と意見交換した後、蘇州から北京行の「和諧号(中国版新幹線)」に飛び乗った。
 北京では大学生を前に英語で講義したり、主要シンクタンクを回って意見交換を行い、実に勉強になった。

 筆者にとって中国で頑張っている日本人や北京の中国人知識人から聞く生の話は何よりも貴重だ。本来ならお休みを頂く週なのだが、今回はせっかくの上海・蘇州・北京出張でもあり、最新のスナップショットを文章にして残しておきたいと考えた。暫くの間、筆者の独断と偏見にお付き合い頂ければ幸いである。

■意外(?)にしっかり走る新幹線

 筆者が蘇州から飛び乗った新幹線は上海虹橋駅から北京南駅まで5時間半で走ったが、もっと速く4時間台で走る列車もあると聞く。
 時間の違いは途中の待ち合わせの回数の違いだそうだ。
 友人からは事前に「車内は騒がしいけど我慢しろ」と警告されたが、周りの乗客は拍子抜けするほど静かだった。

 値段は一等座(日本式ではグリーン車)で片道933元(1万5000円程度)。
 安くはないが、飛行機とあまり変わらない。
 空港に2時間前に行って、到着後タクシーを利用することを考えれば、5時間半の新幹線もあまり苦にならない。
 さらに値段は高いが、座席がほぼフラットになる「ビジネス座席」というのもあった。

 中国の新幹線というとやはり事故を連想する。
 筆者もこの点ではミーハーで、初めはちょっと怖い気もしたのだが、乗ってみれば意外に快適だ。
 電源はあるし、最高速度は時速305キロ、日本の新幹線と比べても決して見劣りはしない。

■経済リスクよりも政治リスク

 車窓からは外を見ると、時折農地のど真ん中に高層ビル群が忽然と現れる。
 半分は建設中だが、半分は空き家のようだ。
 なるほど、これが有名な「鬼城」と呼ばれるゴーストタウンなのだろうか、と妙に納得した。
 あんな所にマンションを建てて中国経済は一体どうなるのだろう。
 他人事ながら心配になる。

 経済と言えば、上海と蘇州では現地で頑張っている日本人ビジネスマンを紹介してもらった。
 10年前と比べて感じるのは、業種を問わず、各社とも以前にも増して優秀な人材を本気で投入していることだ。
 いずれも2012年9月の反日暴動を生き抜いたツワモノたち、さすがに中国経済をよく見ていると感じた。

 個々の意見交換の詳細は書けないが、少なくとも三中全会の決定に関する評価について彼らの印象は筆者のイメージに近かったように思う。

 要するに、
中国経済のリスクとは、経済的リスクではなく、政治的リスクである
ということ。
 結局のところ、中国経済のポイントはこれに尽きるだろう。

■NSCか、KGBか

 今回の北京出張では多くの中国人専門家に会えた。
 毎回必ず質問したのが、三中全会で設置が決定された「国家安全委員会」の具体的内容だ。
 質問は単純。
 新委員会の所掌事務に「外交・防衛」のような対外政策も含まれるのか。
 結論を先に言えば、これに権威を持って回答できる中国人は1人もいなかった

 当然だろう。
 国家安全委員会は「設置すること」以外の詳しい発表は皆無だ。
 国際関係を専門とする一般関係者はもちろんのこと、共産党員のいわゆる「インサイダー」に聞いても「全く知らされていない」という。
 そうであれば、筆者が独断と偏見で国家安全委員会の所掌事務を推測するしかないだろう。

★筆者の現時点での見立ては次ぎの通りだ。

1]、「国家安全」とはSafety of the Nationであり、「国家安全委員会」をNational Security Councilと訳すことは間違いとまでは言わないが、かなり誤解を招く表現である。

2]、三中全会決定文にある国家安全委員会設置
に関するパラグラフの直前には、以下の通り、社会秩序の安定と公共の安全を重視する文言が並んでいる。
 されば、同委員会は対外的な外交・防衛政策というよりも、
 内政的な治安・安全政策と密接な関係を有すると考えた方が実態に近いだろう。

「社会の管理を革新する(创新社会治理)」、
「調和的な因子を最大限増加(最大限度增加和谐因素)」させ、
「社会発展の活力」を高め(增强社会发展活力)、
「社会管理の水準」を引き上げ(提高社会治理水平)、
「国家の安全を維持(维护国家安全)」し、
「人民の就業と生活の安心、社会の安定と秩序」を確保する(确保人民安居乐业、社会安定有序)。

「社会の管理方式を改良(改进社会治理方式)」し、
「社会組織の活力(激发社会组织活力)」を引き出し、
「社会矛盾を効果的に予防し解消する体制(创新有效预防和化解社会矛盾体制)」を革新し、
「公共安全体系を整備する(健全公共安全体系)」必要がある。

 通常、三中全会は主として内政問題の政策決定の場とも言われるが、それにしても、
 今回の三中全会の決定全文の中で外交政策に触れた部分は一箇所もない。
 恐らく今回の決定に際しては、公安部や国家安全部系の内政関係者が原案を練った可能性が高いのではなかろうか。

3]、一方、このことは国家安全委員会が外交・防衛政策を所掌しないということを自動的には意味しない。
 「国家安全」とは対外政策と国内政策の両方を含む概念である、という話はあちこちで聞かされた。
 国家安全委員会は内政上の問題解決を念頭に置きつつ、対外政策の意思決定にも関与する可能性があるのではなかろうか。

4」、以上を念頭に、あえて仮説を立てるとすれば、次の可能性が考えられよう。

●官僚主義の蔓延る中国では、国内で逮捕・捜査権を持つ警察などの「治安組織」と、各種活動を通じて豊富な情報を握る「諜報機関」との間の連携が必ずしもうまく取れていない可能性があるのではないか。

●そうであれば、新たに設置される国家安全委員会は、これらの「取り締まり」機能と「情報収集分析機能」の一体化、もしくは連携強化を図る一種のKGB的組織となる可能性があるのではなかろうか。

●一方、最近のウイグル族関連事件に見られる通り、今後中国の国内治安・秩序維持のためには外国勢力の動向把握がますます重要となる。されば、対外政策部門との連携も従来以上に必要となるだろう。

●されば、国家安全委員会は単なるKGBとはならず、部分的ながら、米国や日本のNSC(国家安全保障会議)のような役割を果たすこともあり得るのではなかろうか。

 現時点ではこれ以上の推測はできない。
 この3日間で20人以上もの国際問題専門家に話を聞いたのだから、1人ぐらい知ったかぶりをする人が出ても不思議はない。
 だが、今回は従来にも増して、皆さん口が重かった。
 中国の国家安全委員会についてはいずれ再び取り上げることになるだろう。

宮家 邦彦 Kunihiko Miyake
1953年、神奈川県生まれ。東大法卒。在学中に中国語を学び、77年台湾師範大学語学留学。78年外務省入省。日米安全保障条約課長、中東アフリカ局参事官などを経て2005年退官。在北京大使館公使時代に広報文化を約3年半担当。現在、立命館大学客員教授、AOI外交政策研究所代表。キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。





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